ほのやく

現役大学病院薬剤師がお薬や医療に関することについて語っていきます。

【味覚障害】味覚障害の機序や原因について【抗がん剤の副作用】

 


抗がん剤治療が開始となった際、味覚障害を訴える患者さんが少なからずいらっしゃいます。

味覚障害の機序や原因はどのようなものなのでしょうか?f:id:mana2525:20200621170107j:image

 

 

 

味覚障害とは

  • 抗がん剤治療を受ける方の6割味覚障害が起こるとされています。しかし、抗がん剤投与の継続は、患者の生死に直接関わるため、味覚障害により投与中止や減量となることは、まずありません
  • 多かれ少なかれ、食の楽しみを奪われることは、患者のQOLや精神面に大きな影響を及ぼすため、味覚障害への対処法は医療者が知っておくべき重大な項目の1つといえるでしょう。
味を感じるポイントは3つあります。いずれか1つでも障害されると味覚障害を引き起こします。
 

1. 味蕾が舌・軟口蓋の味覚乳頭に分布していること

抗がん剤投与などで味蕾(味のセンサー)が障害を受け、5つの基本的な味(甘味・酸味・苦味・塩味・うま味)を感じる機能が落ちます。

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2. 味を感じるには水分が必要であるであること 

  • 味蕾が感知するのは、水に溶けた味物質のみです。スープなどの汁物は唾液がなくても感知できますが、パンなどの乾いたものは唾液中の水分が必須となります。

 

3. 味の信号は神経から脳へ伝わってはじめて感知されること

  • 味蕾で感知された味の信号は、脳神経の一部の枝(顔面神経、舌咽神経)によって脳に送られます。

 

味覚障害の発生機序

全身の問題

1. 神経毒性のある薬剤などによる味覚伝導路異常

 

2. 亜鉛欠乏

  • 抗がん剤を投与している患者には、少なからず亜鉛欠乏に基づく味覚障害が存在しています。
  • 味覚細胞はほかの感覚細胞と異なり、およそ1か月の短い周期で新生・交代を繰り返しています。細胞が新生するときには、DNA合成のため亜鉛を大量に含むタンパク質や酵素を必要とするため、味蕾は常に大量の亜鉛を必要としています。
  • 悪液質に陥り、食欲不振・るいそうなどが進むことで、食事性の亜鉛欠乏症の形で味覚異常を起こしているものも少なくないとされています。

3. 薬剤による味蕾の機能低下

4. 心因性味覚障害

  • 悩んでいるときに物をおいしく感じられず、食事がのどを通らないのは健常な人でも同じです。がん診療では心因性味覚障害も頻繁に起こるため、心理的サポートを心掛け、うつ病などの専門的介入が必要かを考慮する必要があります。

 

5. 全身状態に伴う味覚障害

  • 肝・腎機能低下に伴って味覚障害を生じることが知られています。

局所の問題

1. 口腔内病変

  • 抗がん剤や副腎ステロイド薬投与だけでなく、がんの状態そのものも免疫抑制状態を引き起こすため、高度に免疫力の低下した患者が多く、高頻度カンジダ口内炎が引き起こされ、味覚障害の原因となります。
  • ビタミン・鉄欠乏に伴う悪性貧血や鉄欠乏性貧血による舌炎を認めることがあります。

 

2. 口腔内乾燥による唾液量の減少

  • 抗がん剤放射線療法により唾液腺が委縮し、口腔内乾燥を引き起こすことがあります。

 

治療法については次回説明します。