【抗がん剤副作用】トラスツズマブの心毒性の原因、症状、心エコー、血中トロポニン値、対処方法、使用する薬剤について
トラスツズマブ投与されている患者さんの心機能について確認していますか?
心機能の原因、症状、心エコー、血中トロポニン値、対処方法、使用する薬剤についてまとめましたので、復習しましょう。
心毒性とは
抗がん剤による心毒性は、発現頻度は低いものの、診断が遅れたり対応を間違えたりすると、症状が進行し重篤化してしまうことがあります。 そのため、注意深くモニタリングを行う必要があります。
症状
呼吸困難、末梢性浮腫、頸動脈怒張、頻脈などが見られることがあります。
トラスツズマブでの心毒性はなぜ起こるのか?
トラスツズマブは抗HER2ヒト化モノクローナル抗体です。
そのため、標的とするものはHER2受容体となります。
HER2受容体はがん細胞に発現している場合があり、HER2陽性であれば使用することが可能となります。
しかし、HER2受容体はがん細胞だけでなく、心筋細胞の生存経路にも発現していることがわかっています。
アントラサイクリン系薬剤による酸化ストレスが加わると、心筋細胞の生存経路が活性化されますが、トラスツズマブを投与するとHER2受容体に結合していまうので、生存経路が遮断されてしまいます。
そのため、アントラサイクリン系薬剤とトラスツズマブを併用すると心不全の発症率が高くなると考えられており注意が必要です。
心エコーについて
トラスツズマブには心毒性があるため、心エコーによる心機能検査が必要です。
検査期間はトラスツズマブ投与中は1か月~3か月ごとに心エコー検査が必要で、もともと心機能障害がある場合やトラスツズマブ投与により心機能障害が見受けられる場合は1か月間隔での心エコー検査が必要となります。
心エコーで確認すべき項目は駆出率(EF:ejection fraction)です。EFは心機能のうち、心室収縮機能の代表的な指標で、左室の収縮力を測ることがでいます。
EFが55%を切ってくるようであれば、心機能障害が見受けられますので、専門医へのコンサルを提案した方がよいでしょう。
特に乳がんで使用する場合は、アントラサイクリン系薬剤を使用されている場合があり、そういった患者さんではすでに心機能が落ちている場合もあるため、より注意をしてモニタリングをする必要があります。
当院だけなのしれませんが、医師によっては心エコーによる心機能検査をよく忘れていることがあります。そうした場合、薬剤師より心エコー検査の依頼をすることも大切なことだと思います。
血中トロポニン値について
血中トロポニン値とは心筋細胞の壊死の指標となります。
そのため、血中トロポニン値が上昇しているようであれば、心筋細胞が壊死している可能性があります。
血中トロポニン値を測定することで、心筋損傷の有無を判定し、トラスツズマブの投与の可否を判断することができます。
対処方法
休薬が必要となります。
トラスツズマブによる心機能障害は、治療開始後数週間から数か月以内に発現し、可逆性であると言われています。
そのため、心機能障害が見られたことにより投与が中止となった場合、休薬後に心機能が回復する可能性があり、心機能が回復した場合は投与を再開することも可能です。
ただし、トラスツズマブ投与となった20%の患者では不可逆性の心機能障害が起こるとされていることから注意が必要です。
また、アントラサイクリン系薬剤の心機能障害は不可逆性であるため、トラスツズマブとアントラサイクリン系薬剤との併用療法を行う際はより注意が必要となります。
心不全時に使用する薬剤について
一般的にはACE阻害薬やβ遮断薬を使用します。
重症例となれば利尿薬も使用します。利尿薬を使用する際は、血中カリウム値が低下する薬剤が多く、心電図でQT延長と不整脈が発生してします場合があるため注意が必要です。
専門医へのコンサル等を行い、チームで治療に取り組むことが大切となります。