ほのやく

現役大学病院薬剤師がお薬や医療に関することについて語っていきます。

【抗がん剤副作用】アリムタの処方鑑査、副作用モニタリングのポイント

アリムタを投与する際に腎機能の確認をしていますか?

処方鑑査をする際や副作用モニタリング時におけるポイントについて説明していきます。

 

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腎機能を確認する

アリムタを投与する際、腎機能の確認は必要です。

具体的にはCCr 45 mL/min以上であればfull doseでの投与も可能です。

教科書的にはCCr 45 mL/min未満の場合は十分なデータがないため投与を行わないことが望ましいですが、実臨床としては減量して投与することが多く、重度に腎機能が低下している場合のみ投与を中止ということが多いです(減量割合については医師の裁量によるところがあります)。

理由に関しては、GFR 19 mL/min程度の重度の腎機能障害をきたした患者にアリムタを投与した際に死亡例があること、またCCr 45 mL/minの患者と90 mL/minの患者のクリアランスについて、CCr 45 mL/minの患者ではクリアランスが低く、AUCも増大したためです。

日本のアリムタの添付文書には腎機能について以下のように記載があります。

警告欄に「重度の腎機能障害患者で、本剤に起因したと考えられる死亡が報告されているので、重度の腎機能障害患者には本剤を投与しないことが望ましい。」

薬物動態に与える腎機能の影響の欄に「日本人の腎機能低下患者(クレアチニン・クリアランス45mL/min) に本剤500mg/m2 を投与した場合、腎機能が正常な患者(クレアチニン・クリアラ ンス90mL/min)に比較して、本剤の血漿クリアランスが32%低く、血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)が48%増大すると予測された)」

 

NSAIDsの併用に注意

禁忌ではありませんが、NSAIDsを使用されている場合は副作用が増強されるおそれがあるため注意が必要です。特にがん患者さんは疼痛の症状が出ていることも少なくなく、NSAIDsを併用していることもよくあります。NSAIDsを服用しているからアリムタの投与を中止するといったことはありませんが、骨髄抑制の副作用が強くみられる際は被疑薬として候補を挙げ、他剤への変更も考慮する必要があるかと思います。

アリムタとイブプロフェン、アスピリンを併用した場合の薬物動態と毒性を検討した文献では、アリムタとイブプロフェンと併用した際、クリアランスが16%低下し、最高血中濃度が15%上昇しました

NSAIDsを併用投与する際には、頻回に臨床検査を行うなど患者の状態を十分に観察してください 

米国の添付文書では半減期が短いNSAIDsでは腎機能が正常(CrCl  80 mL/分以上)の患者では投与は可能だが、軽度から中等度の腎障害がある患者(CrCl 4579 mL/分)では、アリムタ投与の2日前からアリムタ投与2日後の5日間は投与を避けることが望ましいとされています。

また、半減期が長いNSAIDsについては、データがない為、全ての患者で、アリムタ投与の5日前からアリムタ投与2日後の8日間は投与を避けることが望ましいとされています。

 

投与中は皮疹の確認を

アリムタの副作用に皮疹があります。この皮疹は高頻度に起こるため(73.8%)、モニタリングが必要です。

皮疹予防として、デカドロン錠を投与前日から内服することがあります(医師にもよりますが、day -1.2にデカドロン錠 8mg/日、day1は前投薬としてのデカドロン注(用量はレジメンによる)にて対応されることが多いと思います)

皮疹が発現した場合は、皮疹の程度に合わせて抗ヒスタミン薬の内服やステロイド外用薬の処方が必要です。重症例であれば、皮膚科へのコンサルも考慮してもよいでしょう。

本邦において、必須の併用薬ではありませんが、非小細胞肺癌を対象としたアリムタ単剤の国内第Ⅱ相試験で高頻度(アリムタ:500mg/m2投与群で67.5%77/114例)、全体で73.8%166/225例))に発疹が見られたことから、ステロイドの併用投与を考慮してください。

一方、悪性胸膜中皮腫に対するアリムタとシスプラチンとの併用の国内第Ⅰ/Ⅱ相試験においては、悪心・嘔吐予防のために結果として25例全例にステロイド剤が予防投与されていました。この試験では、発疹の発現頻度は32.0%8/25例)でした

また、外国での開発初期に実施した臨床試験において、デキサメタゾンを予防投与として使用された症例では、発疹の発現率及び重症度を抑える傾向が認められたことから、その後の外国臨床試験では前投薬及び併用薬として本剤投与の前日から投与の翌日までの3日間、デキサメタゾンを14 mg12回経口投与されました

 

葉酸、ビタミンB12を併用しているか確認する

一般的に葉酸であればパンビタン 1.0g/日 毎日服用ビタミンB12であればメチコバール注 500μg 2Aもしくはフレスミン注 1Aを9週ごとに筋肉注射する必要があります(調剤薬局でパンビタンの処方せんを見られたときは、アリムタが投与されていることが多いかと思います)。

また初回投与であれば、葉酸とビタミンB12は1週間前から投与する必要があるため、投与済みであるか確認する必要があります。初回導入で入院してきたものの、投与が行われていなかったということは当院でもよくあります(あってはいけないのですが・・・)。その場合は葉酸、ビタミンB12の投与を開始しアリムタの投与1週間投与を遅らせることが原則なのですが、実臨床としてはアリムタ投与同日より葉酸、ビタミンB12を開始することもあります(あってはいけないのですが・・・)

葉酸とビタミンB12を投与する理由は、副作用予防のためです。アリムタは葉酸代謝拮抗剤なので、結果的にホモシステイン、メチルマロン酸が高値となり副作用発現につながります。

海外の臨床試験の際に、他の葉酸拮抗剤で葉酸の投与により副作用が軽減することが報告されていたことから、アリムタについても葉酸やビタミンの欠乏マーカーとしてホモシステインやメチルマロン酸の血中濃度の測定を実施し、副作用との関連性を解析しました。その結果、ホモシステイン、メチルマロン酸が高値の患者で重篤な副作用の発現率が高いことが示されています。葉酸とビタミンB12を投与することで、これらの濃度を低下させ、結果的に副作用が軽減されます。

ただ、葉酸やビタミンB12が必要だからといって、患者さん自身がサプリメントで葉酸やビタミンB12を摂取することは治療効果が落ちる原因にもなる可能性があるため、その必要性はないことを十分に説明しましょう。葉酸とビタミンB12の補充は処方薬のみで十分です。

 

まとめ

腎機能がCCr 45 min/mLを切っているがfull doseでのアリムタ投与となっていることや、葉酸やビタミンB12が投与されていないこと(特に9週間ごとのビタミンB12は医師もよく忘れてしまい、気づいたときにはかなり間隔があいてしまっているということも)があります。

そういったとき、薬剤師が疑義照会であったり処方鑑査を行うことで医師への処方提案ができると薬剤師の存在意義を少しでも認めてもらえるのかなと思います。