医師会が「やせ薬」に注意喚起!GLP-1作動薬って?現役大学病院薬剤師が解説!
先日、『糖尿病治療薬で「ダイエット注射」、医師会が注意喚起』というニュースが流れてきました。
一体どういうことなのでしょうか?
経緯
GLP-1阻害薬が、一部の医療機関で「ダイエット注射」などとして適応外のやせ薬として使用されているとして、6月17日に医師会が注意喚起を行いました。
医師会のコメントでは「治療の目的から外れた使い方は医の倫理からも外れる」と批判し、厚生労働省などの関係省庁に対応を求めることを対応するとのこと。
もともとGLP-1作動薬は糖尿病の治療薬として日本では承認されています。今回の「やせ薬」としての使用は保険適応外であり、自由診療です。自由診療ということは、診察代や薬剤費は全額本人負担となります。ざっと調べてみたところ、1週間に1回の注射で1万円前後のクリニックが多かったです(何の薬剤を使用しているのでしょうか?HPには記載がありませんでした・・・)。
ちなみに欧米では食欲を抑え、体重を減らすとして肥満症の治療薬としても使用されてはいるようです。
過去には・・・
過去に武田製薬がオブリーンという薬剤を抗肥満症として承認を目指したことがあります。
2013年に製造販売承認を取得しましたが、その薬価収載を審議した中医協総会で同剤の有効性や保険診療上に必要性が問われ、2018年に未発売のまま日本での開発・製造・販売権を導入元企業のオランダのノルジーンに返還しました。
日本では、「やせ薬」としての薬は日本では認められにくい背景なのかもしれませんね。
GLP-1作動薬って?
まずは生体内での血糖管理について学びましょう。
インスリンは血糖を下げる生体内物質ですが、私たちの体の中には血糖を下げる生体内物質はインスリンしかありません。
これは血糖が高くなることを人間の進化が予想していなかったからだと言われています。動物を狩って生活していた時代からすると、食べ物にあふれている現代社会なんて想像もつきませんからね。
そのため、飢餓に備えて血糖を上げる生体内物質はグルカゴン、アドレナリン、コルチゾールなど作られましたが、血糖を下げる生体内物質はインスリンのみしか存在していません。
血糖を上げる生体内物質
血糖を下げる生体内物質
そしてGLP-1というホルモンは、以下の4つの働きがあります。
- インスリン分泌促進(血糖依存的)
- グルカゴン分泌抑制(血糖依存的)
- 胃排泄遅延
- 食欲抑制
出典:糖尿病サイト
まずは保険診療内にて使用される糖尿病治療薬としての使用についてです。
GLP-1には血糖依存的にインスリンの分泌を促進する働き及びグルカゴン分泌抑制があるため、結果的に血糖を下げることになります。そしてこのGLP-1は血糖依存的にということが良い点で、血糖依存的に作用することから低血糖の時には作用しない、つまり低血糖になるおそれがかなり抑えられています。
ただ一つ問題があり、このGLP-1はDPP-4と呼ばれるタンパク質によって、速やかに分解されてしまい効果はすぐに失われます(1~2分程度)。
GLP-1に着目しこの問題点を改善したものが、GLP-1作動薬と呼ばれる薬剤で、GLP-1のアミノ酸配列を改変させてDPP-4の分解を受けにくくした薬剤です。そのため投与されると、生体内で長時間作用するのが特徴です。
長時間作用してもGLP-1は血糖依存的であるため、生体内に長く滞留しても低血糖のリスクはかなり低くなっています。
ここまでが糖尿病治療薬としてのお話。次からはやせ薬としてのお話です。
GLP-1作動薬にはその他に胃排泄遅延や食欲抑制という作用もあり、この作用によって体重減少効果も示唆されています。
今回の適用外使用についてはこの胃排泄遅延や食欲抑制効果からくる体重減少効果を期待して投与されているのだと思います。
まとめ
肥満に対して自由診療としてGLP-1作動薬を使用することに対して、肯定も否定もしません。しかし、体重を健康的に落とすには食事療法、運動療法が一番大切であり、まずはそれを行うことが必要ではないかと思うのは私だけでしょうか?